2023.1.27オンライン開催!コメ農家と防災アプリ開発の二足の草鞋~私がチャレンジし続けるわけ~ 和田晃司さん

 

2023年最初のゲストは、須賀川市で稲作農家を営む傍ら、地域防災アプリ「S.A.F.E.」を開発し、「複業起業家」として活躍中の和田晃司さんです。数々のピッチイベントに登壇し、総務省のICT地域活性化大賞総務大臣賞を受賞。2022年9月の第4回郡山地域クラウド交流会でも優勝しました。現在は新たに「稲作支援アプリ」を開発したり、県内のコメを宇宙に打ち上げたりする「ふくすびプロジェクト」も進行中。次から次と挑戦を続ける和田さんの原動力とは?!和田さんの人生のターニングポイントを探りました。

 

 

須賀川市長沼地区、米農家の家に生まれた和田さんは、3人兄弟の末っ子。小さい頃から田んぼの手伝いは当たり前でした。学校では友だちを積極的に遊びに誘う、いわばリーダー的存在。缶蹴り、サッカー、野球、スーパーファミコンと門限を忘れて遊びに没頭し、しばしば親から「帰ってこい」と電話がかかってくるような少年でした。中学、高校時代は野球部に所属し、白球を追う毎日。勉強は得意ではなかったので卒業後は就職を考えていましたが、「大学に行けよ」という父親のひと言で大学進学を決意します。

 

「社長になれよ」晃司少年に祖父がかけた言葉

千葉県の大学に進学した和田さんは「なにもしていない自分はまずい」という危機感を抱きます。なぜならば小さい頃からずっと、「社長になれよ」と祖父から言われながら育ち、その言葉が脳裏にこびりついていたからでした。そこで始めたのが靴磨き。野球部で革靴やグローブを磨いていた経験から「靴磨きならできるかな」と思ったのがきっかけです。

 

「東京駅や品川駅で1~2週間に1回、曜日を決めてやっていました。駅の関係者の方から『ここでやっちゃだめだよ』と言われたこともありましたが、みなさん結構優しくて『いいよ、使っていいよ』と言われて。あったかいなと思いましたね」(和田さん) 

 

一緒にはじめた友人は現在も靴磨き職人として活躍中で、2017年にロンドンではじまった「ワールド・チャンピオンシップ・イン・シューシャイニング」の初代チャンピオンです。和田さんにとってこれは「商売をする原点」となりました。 

 

米農家を受け継ぐと共に起業。消防団活動の中から生まれたアプリ

靴磨きを続けなかったのは、大学在学中に米農家の跡を継ぐことが決まったからでした。小さい頃から農作業を手伝い、周りからも「誰かが米を作らないといけない」と言われ続けていたため、実家に戻ることは自然の成りゆきでした。卒業後、会社員生活を経ての就農。2015年、和田さん30歳の時です。米農家であると同時に、アプリ開発や農業を主体としたDXに取り組むために起業した記念すべき年となりました。

 

起業家として最初に取り組んだのが地域防災アプリ「S.A.F.E.」です。消防団は全国1,700ある自治体の中で組織され、団員は約85万人。この数は消防署員の約5倍。それぞれが自分の仕事を持ちながら、火事や地震などの災害発生時には、ボランティアに近い形で活動しています。東日本大震災の時も消防団は、被災者支援に大きな役割を果たしました。ただ近年の社会情勢の移り変わりによって団員の数が減ってきている、あるいは日中地元に在席している団員が少なくなっているという課題があります。

 

そこで和田さんが考案したのが火災などの発生時、団員に素早い火災通知ができる地域防災アプリ「S.A.F.E.」です。火災現場の通知、その近くにある水利と呼ばれる消火栓、防火水槽、水源の位置の可視化ができ、リアルタイムでの団員の出動状況がわかります。

 

 アプリの必要性を感じたのは、今から数年前のこと。「アプリを作りたい、こんなものが欲しい」という思いを抱えながら作れる人を探しました。学生時代、アルバイトで関わったIT起業を訪ねていったこともあるそうです。探し回ったあげく意外な場所で、その人と出会います。

 

「同じ須賀川市の消防団員で、エンジニアの方を市役所職員から紹介されました」(和田さん) 

 

開発コンビを組んだ斎藤浩平さんは、元々消防団向けの水利の可視化ができるオープンソースサイトを公開しているエンジニアです。二人はすぐに意気投合。運命の出会いの結果生まれたアプリは現在、福島県内10数自治体で利用され全国展開に向けて活動中です。 

                                              斎藤さんと和田さん                                            

 

チャレンジのモチベーションは妻、そして家族、地域

次に和田さんが取り組んだのは、福島県内59市町村の農家さんの米を宇宙に打ち上げる「ふくすびプロジェクト」。その原体験は東日本大震災にありました。震災後、福島県産の農産物が必要以上に避けられた状況は、今も私たちの記憶に新しいです。「あの時の悔しさは未だにある」と言う和田さん。加えて近年の米価格の暴落。このようなマイナスの要素を「米を宇宙に打ち上げる!」というスケールの大きさで福島県から発信。胸がワクワクする計画に賛同者も現れ、ユーチューバー参加イベントの計画や、地元テレビ局が主催するイベントに「ふくすび米」を提供してPRすることも決まっています。

 

「楽しみながら農業をアピールしたい」と話す和田さんですが、チャレンジの裏には、常に妻の支えがありました。

 

「創業したての頃に学んだ経営塾で事業計画が全然できなくて、生き生き輝いている周りを見て沈んでいた自分に

『大丈夫だよ。やりたいことをやっていいよ』と妻が声をかけたことで吹っ切れました」(和田さん)

 

高校2年生の時から付き合っている妻は、和田さんが8年間勤務した会社を辞める時も「いいじゃない」と背中を押してくれました。

 

「いつも許容してくれるというか、後押ししてくれるパートナーに巡り会えたというのが、

まさに人生のターニングポイントでしたね」(和田さん) 

 

そしてもう一つのパワーの源は、和田さんが暮らす地域と子どもたちの未来を思う気持ちです。

 

「自分が中学生の頃は100人くらいの同級生がいました。今、小学校に通う娘がいますが、彼女の同級生は一学年約10名です。集落の衰退や子どもが少なくなっている状況を『このままじゃまずい』『なにかしたいな』という気持ちがプロジェクトを始めた原点です」(和田さん)

 

次なる和田さんのチャレンジは、稲作のためのDXアプリ開発。農家同士が稲作に関するデータを共有することで効率的に農業ができ、収益アップに繋がれば……という願いを込めて取り組んでいます。

 

「兼業でも農業が続けられれば、地元に残るチャンスが増えて消防団や祭り、学校のPTA活動に取り組む人が増えていくと思っています」(和田さん)

 

アプリに関わるのは農家だけではなく、自治体やJA、資材メーカーなど、よこ連携がとれればさらに効率化が図れると和田さんは考えます。

 

学生時代の靴磨きから始まった和田さんの起業家人生。故郷である須賀川市に戻ってからの開発は、自身の体験をベースにしながら「もっと便利になるように」「もっと効率的になるように」と周囲の人たちに役立つものを作っていこうとする姿勢が印象的でした。

 

周りへの感謝と支えてくれる人への信頼感がベースにある和田さんの人生ストーリーに、寄せられた質問や、参加者ご自身の人生観の分かち合いに、Zoom越しではありましたが、温かな雰囲気に包まれた2時間でした。

 

■参加者からのご感想(ページが移動します)

聞き手:三部香奈

文責 :武田悦江