2022.3.27 オンライン開催!"学校にフィットしなかった少年が学校の先生になる?! "菊地さんが考える「未来の学校」とは? 菊地南央さん

今回のゲストは小学校教諭の菊地南央(きくちなお)さんです。子供時代は興味がある授業があると自分のクラスを抜け出して出席していたという、いわば「問題児」だった菊地さんが、なぜ小学校教諭になられたのか。その理由や、菊地さんの学校教育に関するお考え、教師として目指したい未来をお聞きしました。

 

1987年生まれ、現在34歳の菊池さんは、昨年度まで福島県の公立学校に勤務していました。現在は会津若松市にある私立学校の教員をされています。子どもたちからは「チャレンジする人であり、めちゃめちゃ失敗する人」として見られているという菊地さん。昨年度担任をした学級の終了式に、子どもたちからもらった通知表による評価だそうです。

 

大切にしていることは「子どもを無条件に受け入れる」こと

菊池さんは子どもと一緒に喜び、一緒に考え、ときには一緒に謝る姿勢を大切にしています。なぜならば大人が子どもを叱ったり、褒めたりする行為には、大人側に何らかの基準があって、その基準に合致したら「褒める」、合致しなかったから「叱る」ために、大人が作った基準から子どもは抜け出すことができません。だからこそ「子どもと一緒に!」という姿勢が大事だと考えています。

 

原点は最初に受け持った女の子の言葉

そのきっかけは初任校1年目に受け持った学級の、ある6年生の女の子の言葉でした。小学校を卒業し中学生になった彼女は、職場体験の授業で彼女の母校を選択。菊地さんと再会します。その時に菊地さんは彼女から「先生、3年前の先生は全然だめだめだったけど、ちゃんと子どもの話を聞いていたし、ちゃんと子どもと向き合っていた。今の先生は授業がうまくなって、かっこ良く見える。でもあまり子どもの話を聞いてないよ」と言われたのです。当時の菊池さんは「こうすれば子どもが勉強するようになる」「テストの点数があがるようになる」といった技術的なことに必死になって取り組んでいました。その結果、子どもたちとのコミュニケーションをおざなりにしていたことを、彼女の指摘で気づいたのでした。

 

学校嫌いな菊地少年

そんな菊池さんご自身は、どんな子どもだったのでしょうか。

「あなたは幼稚園の授業参観で自分の教室にいなかった」と母親から言われたことがあるという菊地さん。物心ついたときには授業中「イスを斜めにした状態で何秒保てるか」ということを、ずっとやっていたそうです。給食に出てくるプリンタルトが大好きで、5年生の時に6年生の分の焼きプリンタルトを盗んで食べるという事件を起こし、学校に親が呼び出されたというエピソードもありました。それでも6年生の時の担任の若い先生は、菊地さんたちの話を聞いてくれ、かつ任せてくれる人でした。しかし菊地さんは、その先生が、ほかの先生から叱られている姿を偶然目撃します。子どものためなら他の先生たちに頭を下げられる先生。「こういう先生になりたい!」と菊地少年は思ったのでした。

 

「子どもを信じて任せてくれる」先生との出会い

中学校に進んでも菊地さんにとって学校は、あまり楽しい場所ではありませんでした。ところが中学3年生の時、生徒の話を聞き、生徒に任せてくれる先生に出会います。文化祭の時「映画制作をしたい!」という菊地さんたちの願いを聞き入れ、自らのパソコンを貸してくれたO 先生。夢中になって動画編集に打ち込んでいたら、先生のパソコンを壊してしまいました。(めちゃめちゃ怒られる)と覚悟していた菊地さんに「わー、まいったな」と言いながら「でもお前たち、がんばってやってたんだもんな。しゃーねーか」と言いながら悲しそうな表情を浮かべながら帰っていったO先生。その後ろ姿を「かっこいい!」と思った菊地少年は「子どもを信じて任せられる。子どもにチャレンジするチャンスを与えてくれる大人になろう!」と思いました。

 

教師となった菊地さんが、子どもたちから「先生と会えて良かった」「チャレンジすることの大切さを教えてもらった」と言われるのは、このような経験が大きいのではないかなと振り返るのでした。

 

子どもたち自身の「学び」を大切にする

「子どもを信じて任せる」ほかに菊地さんは「子どもたち自身が学ぶ」ということにスポットを向けています。つまり「どうしたら勉強ができるようになるか」ではなく、「学級というコミュニティがどうしたらより良く成長していけるか」ということを子どもたちに伝えたいと考えているのです。「人生100年時代」と言われるこれからの時代、生きることは学ぶこと。学ぶことを辞めたら、より良く生きることが難しくなると考えているのです。もちろん学びたくない子どもや学ぶのが苦手な子どももいます。そういう子どもたちに対しては「どうやったらできるのか」を友だちに聞いたり、「大丈夫だよ」と声をかけたりするような関わり方ができることを大切にしています。

子どもが地域と地域の人に出会う学びを大切にする

さらに菊地さんは、子どもたちが地域や地域に住む人と出会う「学び」を大切にしています。ただそれを、教室の中だけでやるのには限界があると感じ、地域の方に協力していただきながら授業をつくりだすことを実践しています。たとえば桜の名所がある地域に住む子どもたちに、桜について調べさせることによって、生まれたときから当たり前に見てきた桜が、実は自分たちの地域の宝であることを再確認したり、両親や祖父母の子ども時代を聞くことで、「何もない」と言われていた自分の住む地域が「何でもある」地域だと認識したりしました。

 

菊地さんが教育の実践を通して目指しているのは「大人は子どもを愛している」ということを、子どもたちに実体験として伝えること。出会った子どもたちすべてに「その子のことを、どれだけ思っているか」が伝わることを大切にしています。そのことが実感できるような学校を造っていきたい。学校という立場でのミッションやビジョンづくりに取り組みたいと結びました。

 

後半は参加された方々の自己紹介と感想、質問タイムでした。公立小学校に勤務する方、塾経営者など、教育に関係する方が多く参加されました。その方達の自己紹介やご感想、菊地さんへの質問などを受け付ける時間となりました。菊地さんの言葉の一つ一つが心に染み渡り、じーんとしてきたという感想も聞かれ、終了後も余韻を味わう回となりました。

 

参加者からのご感想(ページが移動します)

聞き手:武田悦江

文責 :武田悦江