2018.11.30開催! 私たちのターニングポイント 千葉清藍さん

今回のゲストは「旅する書道家」千葉清藍(ちば せいらん)さんです。

 

千葉さんは2010年から2011年にかけて、福島県内の全59市町村をまわり、書を書いてこられました。きっかけは始めて開いた個展に対する千葉さんご自身の挫折感でした。「ただ空間の中に書があるだけで何も伝わらない」と言われたこと。時を同じくして書の恩師が亡くなり、書の手本がないと、何も書けない自分に気づいたときでもありました。そこで書道の道具を持ち、旅に出るという決意をしたのですが、福島県に来て10年目という節目でもありました。

2013年からは、海外における書道パフォーマンスを中心とした活動もスタート。現地のジャパンフェスティバルなどのイベントに参加したり、教育機関での講義をはじめ、現地住民に書道教室を開いたりするなど、現在7都市、約2カ月間の活動をされています。最初にアメリカで書道パフォーマンスをしたとき千葉さんは、床に大きい紙を敷いて、大きな筆で書きました。地面に向かって書くことが、日本の伝統的な書き方だからです。

 

でも壁に書けば、もっと大勢の人が書を見ることができます。現地のパフォーマーから「伝統というのはクリエイトしていくもの」言われた言葉に刺激を受けて以来、千葉さんなりに美しく書けるよう、墨の調整をしたり、紙を選んだりするようになりました。そのご紹介をさせていただきながら、語り場では幼少期から聞かせていただきました。

 

 千葉さんは東京都葛飾区生まれ。会計事務所を経営する両親、4歳年上の姉の4人家族で育ちます。家庭の事情により、毎日4時間かけて通学したり、自分が学びたい高校を自ら選び、トップの成績で卒業したりするお話から、とても意思が強い方だという印象を持ちました。が、それは、いつも自分のやりたい道を進ませてくれた親のおかげだと千葉さんはおっしゃいます。その後、縁あって福島県に移住した千葉さん。小さい頃から続けてきた書道を軸に、書家として日々研さんを積む一方、福島県内外の書にまつわる和紙や筆について研究し、活動を共にするお仲間と共に地域の子どもたちや大人に向けたイベントを開催されていらっしゃいます。 

 そんな千葉さんに改めて「千葉さんにとっての書道とは」そして「これからやりたいこと」を伺いました。 

●千葉さんにとって書道とは

書道は楽しさもあれば、トラブルや困難に出会うこともありますが、自分の中で時に剣や鎧にもなります。筆つかいや感性を磨くトレーニングを怠れば錆びるし無限に広がる書の自由も見えなくなるのだと思います。

アメリカに行くようになり、書道の新たな一面を見ることができるようになりました。書道と共通している地球上のものをあえて挙げるとするならば、「清流」清らかな水の流れです。美しい水を書の伝統だとすれば、それらは循環してこそ美しさを保てるのだと思います。どんなに美しい水でもとどまっていればいつか腐ります。しかし無理に循環させたりすれば、環境自体が壊れることもあります。書道が美しい清流であるためには、「循環という創造」と「環境という敬意」が大切だと思っています。

 ●これからやりたいこと

書家という仕事は、赤ちゃんの命名書から墓石の刻字まで一生の大切な場面にも出逢うことがたびたびあり、出逢った時には私自身の準備は完了していて、相手に寄り添った書を提案できることが理想です。そのためには書の技術向上はもちろん、時代に合った考え方や作品の雰囲気、さまざまな感性トレーニングは欠かせないと思っています。

 

また、日本文化である書道に関して、海外の地方都市に行くと「書道って何?」と聞かれることがあります。私は書道が当たり前の日本文化として知られ、それぞれの人々が一生に一度でもいいから大切な言葉、フェイバリットワードをしたためる時間を共有したいと願っています。 

禅語に「我逢人(がほうじん)」という言葉があります。我、人と逢うなり。出逢いの尊さを意味しています。

人とのご縁を大切にしてきた千葉清藍さん。書を通して広げていかれる世界を、これからも楽しみにしています。

聞き手:武田悦江

撮 影:三部香奈